随分と遅くなりましたが、今年の日本ダービーを振り返っておきましょう。上位4頭だけですが個別ラップを採ってありますのでご覧ください。
着順 | 馬番 | 馬名 | タイム | 200 | 400 | 600 | 800 | 前4F | 1000 | 1200 | 1400 | 1600 | 中4F | 1800 | 2000 | 2200 | 2400 | 後4F | 2300 | Goal |
1着 | 14 | ドゥラメンテ | 2:23.2 | 12.9 | 11.4 | 11.8 | 11.9 | 48.0 | 12.0 | 12.2 | 12.4 | 12.4 | 49.0 | 12.3 | 11.4 | 10.9 | 11.6 | 46.2 | 5.7 | 5.9 |
2着 | 1 | サトノラーゼン | 2:23.5 | 13.2 | 11.2 | 11.8 | 12.0 | 48.2 | 11.9 | 12.1 | 12.5 | 12.4 | 48.9 | 12.2 | 11.4 | 11.2 | 11.6 | 46.4 | 5.7 | 5.9 |
3着 | 11 | サトノクラウン | 2:23.5 | 13.4 | 11.5 | 12.1 | 11.9 | 48.9 | 11.9 | 12.2 | 12.4 | 12.2 | 48.7 | 12.1 | 11.4 | 11.0 | 11.4 | 45.9 | 5.6 | 5.8 |
4着 | 13 | リアルスティール | 2:23.8 | 13.1 | 11.7 | 12.0 | 11.9 | 48.7 | 11.8 | 12.2 | 12.4 | 12.3 | 48.7 | 12.1 | 11.6 | 11.1 | 11.6 | 46.4 | 5.7 | 5.9 |
Mahmoud計測RL | 2:23.2 | 12.6 | 11.0 | 11.6 | 11.8 | 47.0 | 11.8 | 12.2 | 12.6 | 12.6 | 49.2 | 12.4 | 11.7 | 11.3 | 11.6 | 47.0 | ||||
公式RL | 2:23.2 | 12.7 | 10.9 | 11.8 | 11.7 | 47.1 | 11.7 | 12.5 | 12.5 | 12.4 | 49.1 | 12.4 | 11.9 | 11.0 | 11.7 | 47.0 |
レース前半は比較的良く流れ、前半部分での追走負荷はそれなりにあったと思われます。しかしペースが落ち着くタイミングが少々後ろ寄りになり、その分4コーナーを回るまでペースが上がらず、最後の直線での一気のスパート戦という様相でした。
まずはリアルスティールから書いてみましょう。レース後、左前剥離骨折が判明しましたが、その影響に関しては前エントリーのコメントで書いた通りです。「骨折の影響は何かしらあったのではないか」という論調を良く見掛けますし、そんな気持ちは分からんでもありませんが、あからさまに感じ取れる走りの異変が見付からなければ影響は皆無と考えるべき、というのが私のスタンスです。
さて、リアルスティールは好スタートを切りしばらくは一つ外枠のドゥラメンテと併走。しかし前半100mを過ぎた辺りで行き脚を抑え込む形。すると見る見るうちにドゥラメンテとは差が開く一方でした。このシーンで「ああ・・・」と落胆する多くの声が聞こえたような気がしました。1周回ってきた最後の直線でも同じようにドゥラメンテに突き放され、後方に陣取ったサトノクラウンにあっさり交わされた以上、何を言っても後の祭りではありますが、リアルスティールを本命にされた方は、そのシーンを見て「それはないだろう」と思ったんじゃないでしょうか。あるいは、「やっぱりな・・・」と早々とあきらめの境地に達したとも感じます。
では、共同通信杯からこの日本ダービーまでの、このリアルスティールの前半1000mの走りを完歩ピッチとラップタイムで比較してみましょう。

スプリングSはテンから相当ゆっくりした流れだったので完歩ピッチのグラフの波がギクシャクしていますが、それでも徐々にユッタリとしたリズムに移行していく様は共同通信杯、皐月賞と同様。しかし今回の前半の走りのリズムは明らかに異質ですね。前述の通り前半100m過ぎで抑え込み、200~400mは11.7程度と早い段階でペースは落としているのに、完歩ピッチはなかなかユッタリとしていきません。鞍上のレース後コメントで「スタートはいつも通りだったけど1コーナーでハミのかみ方が変になった」とありましたが、その様子を裏付けるのがこのデータとなりますね。
前回の調教エントリーでもわかるように、リアルスティールは一気に完歩ピッチを速めてスパートする典型的なピッチ走法ランナーです。その爆発力を生かすためには、道中いかにユッタリとしたリズムで追走しスタミナを温存するかがポイントになりますが、さほどスピードが上がっていないにもかかわらず、これだけ小刻みに脚を速く回転させていてはスタミナ温存度に大きな影響を及ぼしたと考えるほかありません。しかも勝ち馬ドゥラメンテより後方の位置取りでもあったわけで、非常にロスの大きい前半戦だったと思われます。実際、中間点から1F12.4を刻んだ区間では、平均0.452秒/完歩という、新馬戦以来となるほどユッタリとしたリズムで走れていたんですけどね。
何故こうなってしまったかは、我々外野の出る幕ではない分野だと思いますが、このデータと映像から次のような事が推測できるでしょうか。
●ゲートオープンから皐月賞に近いレベルで、馬の行く気が高まっていた。
●その様子から、鞍上が早々と抑え込む意識となってしまった。もちろん、これは鞍上のレーススタイルによるところも大きい。
●行き気マンマンだったリアルスティールは、抑え込まれたことに当然反抗した。
●レース終盤、前が空くと自らピッチをグッと速めるのがリアルスティールの特徴だが、1~2コーナーでは馬群の大外に位置し前が空いている状態。どんどん走りたくて仕方がないまま時が過ぎてしまった。
枠順的に難しい状態だったとはいえ、皐月賞のように前に馬を置く形になれば、早い段階で走りのリズムがゆったりとしたと思うんですよね。テンから脚を使わせて好位置を取りに行った共同通信杯も、内枠からの発走で自然と前に馬を置く状態になっていました。しかし、今回は映像から見るに抑え込む意識は高くとも、馬の後ろに付けさせる意識はあまり感じられませんでした。また、リアルスティールの特徴的にはほぼ100%不可能だと思うものの、折角最大の敵ドゥラメンテのすぐ内にいたわけですから、そのまま併走していけば1~2コーナーで確実にドゥラメンテが距離ロスする形にもなったでしょう。
ちなみにドゥラメンテをマークする指示が出た云々という話がありましたが、形的にはマークっぽいとはいえ、とてもアクティヴなマークとは言えない形だったとも思います。日本ダービーという晴れの舞台で、競馬における負け方の美学という意味においては、非常に残念な競馬になってしまったなという想いが強いです。
・・・といろいろ厳しい事を書いてきましたが、このリアルスティールのスタートダッシュにおける完歩ピッチの速さは、スプリンターやマイラーに多く見られる傾向でして、そもそも論として2400m戦に対する戦略というのは、結構シビアなところがあったと思います。したがってハナから抑え込もうというスタンスもわからなくはないですし、非常に厳しい戦いに挑んだという点は付け加えておきたいと思います。また、どう転んでも勝ち戦だった新馬戦を除けば2勝2敗みたいなモノであり、サトノクラウンのルメール騎手に至っては0勝2敗みたいなモノですから、そんな比較論で言えばこんな形となっても仕方がないと思ったり・・・。
2着のサトノラーゼンは、2走前のはなみずき賞からどんどんパフォーマンスを上げてきた形。ドゥラメンテのスパートには付いて行けなかったものの、ゴール板まで良く踏ん張っていました。ハナ差とはいえ2着を死守した価値は大きいです。特に鞍上岩田騎手の好騎乗が光りました。
3着サトノクラウン鞍上のルメール騎手は、レース後こんなコメントを発していたようです。
「最後はスタミナがなくなって、長く脚が続きませんでした」
ああ、そうでしたか・・・。
ここで上位4頭の100m毎における平均完歩ピッチの推移を見て行きましょう。

1F毎のラップと平均完歩ピッチから、1F毎における1完歩の平均ストライド長が割り出せます。距離ロスは考慮していませんが残り600mにおける各馬の平均ストライド長はこんな値となります(単位はメートル、5cm刻み)
7.55 - 7.85 - 7.60 ・・・ ドゥラメンテ
7.35 - 7.50 - 7.45 ・・・ サトノラーゼン
7.40 - 7.60 - 7.60 ・・・ サトノクラウン
7.20 - 7.40 - 7.30 ・・・ リアルスティール
最初の値はコーナー区間を含んでいるので、ドゥラメンテやサトノクラウンは0.1m程度上乗せして考えた方が良いと思いますが、基本的にはスパート時で最高速をマークする残り400~200m区間でストライド長は最大となります。そしてラスト1Fは狭くなりつつあるのも基本。サトノクラウン以外の3頭はまずまず常識的なストライド長の推移となっていますが、サトノクラウンのラスト400mでのストライド長はほぼ一定でした。
全開スパート時のサトノクラウンは完歩ピッチをグイッと上げてスピードに乗り、その後完歩ピッチが緩くなる反面、力強いフットワークで大きなストライドのまま減速率を抑える走りが特徴です。レース映像上からはゴールまで良く伸びているような印象でしたが、少なくともこの日本ダービー出走馬と比較すれば、末脚の持続力は最も優秀な内容だったと思われます。要は脚を余したレースをしたと言えなくもないレースぶり。上記のルメール騎手のコメントには首を傾げるばかりです。前走皐月賞に引き続き、この日本ダービーでも好結果を出すことができなかった自らの騎乗内容を棚に上げてるなと私は感じました。
僚馬ドゥラメンテとは少し水をあけられた感は否めませんが、スタミナ負けで3着に甘んじたとは正直考えにくいです。相手関係からすれば菊花賞の方が楽だと思うのですが、今秋はその菊花賞に向かわず天皇賞・秋に出走するようです。2000m戦より2400m戦でのジャパンカップの方が適性は高いんじゃないかと私は見ています。
今月発売された【サラブレ 2015年9月号】において、ディープインパクトとキングカメハメハの走りの特徴について執筆しておりますが、そこでもストライド長について触れております。併せてご覧いただければ何かとおもしろいんじゃないかと思います。
https://www.enterbrain.co.jp/product/magazine/sarabre/15000054
サトノクラウンまでのくだりは日本ダービーが終わった10日後くらいに書き終えていて、ドゥラメンテについて何を書こうかといろいろ考えている間に超多忙になるわ、当のドゥラメンテが故障するわで延び延びになってしまいました。しかし、故障は返す返すも残念。もうタラレバでしかありませんが、あのTreveに対して末脚比べのガチンコ勝負に持ち込んで、互角、あるいはそれ以上の戦いができると思っていたのですが・・・。
残り500mからの末脚は皐月賞同様、強烈過ぎるほどの伸びでした。その一方、残り200m辺りから後続勢と同じ脚色になったのはある意味不自然とも言えるものであり、ソラを使ったのか、後に判明した骨折の影響でもあったのかはわかりませんが、ケチを唯一付けるとしたらこの辺りの内容でしょうか。まあ、それでも負けようがないレースだったのは確かで、着差以上の完勝という走りでした。
折り合い付いて走ればこれくらいの末脚を発揮するのは戦前からわかっていたわけで、この日本ダービーでのドゥラメンテのハイライトは前半の走りだと私は思います。ではリアルスティール同様、前半1000mのラップと完歩ピッチを過去走と比べてみましょう。

見るからに引っ掛かっていた共同通信杯は完歩ピッチからもその様子が伺えます。ミルコ・デムーロ騎手に乗り替わった皐月賞では調教の段階からそっと走らせ、実際のレースでも折り合いを最優先とし後方からゆっくりと走らせていました。今回の日本ダービーは距離延長となる2400m戦ですから、基本的に皐月賞の流れを汲んだレースをさせるのが、ある意味常識的な見方だったと思います。ところがミルコ・デムーロ騎手は普通に出して行き、いわゆる『勝てる位置取り』でレースを進めました。引っ掛かってもおかしくないギリギリのところでしっかりと抑え込み、バックストレッチの入り口、前半800m辺りで8番手。勝負はココで決まったといっても過言ではないでしょう。ラップ、完歩ピッチ的には実にスムーズな前半の走りだったセントポーリア賞を上回る積極的な追走劇。冒頭で書いたリアルスティールとは実に対照的な前半戦となりました。
このような『勝てる位置取り』というモノを凄腕の外国人騎手に何度も見せられるわけで、何というか国民性の違いかなあと思わなくもないのですが、じゃあ日本人はダメなのかというと、一概にはそう言えないのもまた然り。というわけで競馬ではなく先頃行われた世界水泳選手権を例に見て行きましょう。
今回の世界水泳選手権で最も印象的だったのが男子400m個人メドレーで金メダルを獲得した瀬戸大也選手のレースぶり。この種目はバタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、そして自由形(クロール)を、それぞれ50mプールを1往復して100mずつ泳ぎます。最初のバタフライの前半50mは飛び込み区間となりラップタイムの比較が難しくなるので除外して、背泳ぎ以降の3種目、100~400m区間における50m毎のラップタイムを表にしてみました。

http://omegatiming.com/File/Download?id=00010F020000041102FFFFFFFFFFFF02
おそらく後半にラップを上げにくいであろう平泳ぎはさておき、1位の瀬戸大也選手は背泳ぎと最終種目の自由形において、ほぼイーブンラップに近い形で前後半を泳いでいます。過酷な練習の積み重ねに基づいているのは言うまでもありませんが、決勝の舞台で己の力をきっちり発揮する会心のレースをやってのけました。精神力も含め、真のトップアスリートと感じさせる見事な泳ぎだったと思います。これこそ、『勝つレースをした』典型例でしょう。一方、2~5位の選手はその2種目どちらも後半50mが速く、特に2、4、5位の選手はラストの自由形で後半1秒以上もラップを上げています。瀬戸大也選手は今大会ケガで欠場した萩野公介選手と熾烈な争いをしているレベルにある選手であり、また前大会の同種目のチャンピオンですから、他の外国人選手が実力差を感じつつ後半重視の着取り的なレースをするのは戦略的にベターだったのかもしれませんが、これは競馬で言うところの脚を余したレースそのものでもあるんですね。ただ、水泳競技の場合、コースを大きく隔てた他の選手との間隔差が掴みにくい側面があります。瀬戸大也選手の隣のコースを泳いでいた3、6位の選手はラップの後傾度が少なく、特に6位の選手が自由形で唯一前傾ラップとなっていたのは、瀬戸大也選手との差を認識できていたため追っ掛けようとする意識が高かったのではないかと考えられます。
競馬はジョッキーが競走馬を操る形である以上、『自分のレース』と言えるような適性値の高いペース配分でレースをするのは非常に難しい事だと思います。ですから文字通り相手と『競う』要素が大きいのが競馬。今年の日本ダービーは、如何ともしがたい実力差が大きかったとはいえ、ドゥラメンテに何らかのプレッシャーを与える馬がいなかった点が残念でした。もうちょっと迫力あるレースを期待していたのですが・・・。
今回はこのあたりで。