キツいペースで先行してそれなりに粘った馬は、次走でほぼ例外なく馬券的な狙い目となります。逆に、好走したもののヌルいペースに恵まれた馬は、次走ペースが上がって厳しい戦いを強いられるケースがままあります。前走の経験を良い意味でも悪い意味でも引き摺ってレースをする事が多いわけで、今回のトランセンドは行き脚がどれくらい付くのか疑問な点もあり、苦しいレースになるかと思っていましたが・・・、さすがの馬ですね。
では全頭個別ラップをご覧頂きましょう。トランセンドと2、3着馬の着差は2馬身、0.3秒差となっていますが、実際のところタイム差は0.38秒くらいというか、限りなく0.4秒に近い差がありましたので、より現実感を持たせる意味でワンダーアキュート、エスポワールシチー等、数頭は公式走破タイムより0.1秒遅くしています。また、阪神ダートの残り1400m地点の計時タイミングはいつも狂っていますので、検証の意味を含めて3方向同期したレース映像もご覧になってください。ホントにこの部分は致命的にズレます。一応念押ししておきますが、ラップ専門家の方々は重々承知の上ですよね?
着順 | 馬番 | 馬名 | タイム | 200 | 400 | 600 | 前3F | 800 | 1000 | 1200 | 中3F | 1400 | 1600 | 1800 | 後3F | 1700 | Goal |
1着 | 16 | トランセンド | 1:50.6 | 12.5 | 11.1 | 12.2 | 35.8 | 12.4 | 12.7 | 12.3 | 37.4 | 12.2 | 12.3 | 12.9 | 37.4 | 6.2 | 6.7 |
2着 | 9 | ワンダーアキュート | 1:51.0 | 13.7 | 11.2 | 12.2 | 37.1 | 12.0 | 12.6 | 12.4 | 37.0 | 12.2 | 12.4 | 12.3 | 36.9 | 6.0 | 6.3 |
3着 | 6 | エスポワールシチー | 1:51.0 | 12.7 | 11.1 | 12.2 | 36.0 | 12.3 | 12.7 | 12.3 | 37.3 | 12.2 | 12.4 | 13.1 | 37.7 | 6.3 | 6.8 |
4着 | 4 | ラヴェリータ | 1:51.1 | 13.0 | 11.2 | 12.1 | 36.3 | 12.3 | 12.6 | 12.3 | 37.2 | 12.2 | 12.3 | 13.1 | 37.6 | 6.3 | 6.8 |
5着 | 13 | ダノンカモン | 1:51.1 | 13.1 | 11.3 | 12.3 | 36.7 | 11.9 | 12.7 | 12.3 | 36.9 | 12.3 | 12.4 | 12.8 | 37.5 | 6.2 | 6.6 |
6着 | 11 | ミラクルレジェンド | 1:51.2 | 13.2 | 11.7 | 12.4 | 37.3 | 11.8 | 12.6 | 12.3 | 36.7 | 12.3 | 12.2 | 12.7 | 37.2 | 6.2 | 6.5 |
7着 | 14 | ヤマニンキングリー | 1:51.2 | 13.5 | 11.5 | 12.6 | 37.6 | 11.8 | 12.4 | 12.3 | 36.5 | 12.1 | 12.1 | 12.9 | 37.1 | 6.2 | 6.7 |
8着 | 2 | ソリタリーキング | 1:51.3 | 13.2 | 11.2 | 12.3 | 36.7 | 12.2 | 12.6 | 12.4 | 37.2 | 12.2 | 12.4 | 12.8 | 37.4 | 6.2 | 6.6 |
9着 | 12 | ニホンピロアワーズ | 1:51.3 | 12.6 | 11.3 | 12.4 | 36.3 | 12.3 | 12.7 | 12.3 | 37.3 | 12.3 | 12.3 | 13.1 | 37.7 | 6.3 | 6.8 |
10着 | 8 | バーディバーディ | 1:51.4 | 13.0 | 11.2 | 12.3 | 36.5 | 12.1 | 12.7 | 12.4 | 37.2 | 12.4 | 12.4 | 12.9 | 37.7 | 6.3 | 6.6 |
11着 | 1 | マカニビスティー | 1:51.4 | 13.7 | 11.5 | 12.2 | 37.4 | 12.0 | 12.5 | 12.3 | 36.8 | 12.4 | 12.0 | 12.8 | 37.2 | 6.2 | 6.6 |
12着 | 5 | テスタマッタ | 1:51.7 | 14.1 | 11.5 | 12.3 | 37.9 | 11.5 | 12.0 | 12.3 | 35.8 | 12.3 | 12.4 | 13.3 | 38.0 | 6.4 | 6.9 |
13着 | 10 | フリソ | 1:52.2 | 13.3 | 11.3 | 12.4 | 37.0 | 11.9 | 12.6 | 12.4 | 36.9 | 12.5 | 12.6 | 13.2 | 38.3 | * | * |
14着 | 7 | ダイショウジェット | 1:52.4 | 13.2 | 11.3 | 12.3 | 36.8 | 12.1 | 12.6 | 12.4 | 37.1 | 12.4 | 12.7 | 13.4 | 38.5 | * | * |
15着 | 15 | トウショウフリーク | 1:53.0 | 12.6 | 11.2 | 12.2 | 36.0 | 12.4 | 12.7 | 12.4 | 37.5 | 12.5 | 13.3 | 13.7 | 39.5 | * | * |
16着 | 3 | エイシンダッシュ | 1:53.6 | 13.8 | 11.5 | 12.4 | 37.7 | 11.6 | 12.2 | 12.6 | 36.4 | 12.8 | 13.0 | 13.7 | 39.5 | * | * |
Mahmoud計測RL | 1:50.6 | 12.5 | 11.1 | 12.2 | 35.8 | 12.4 | 12.7 | 12.3 | 37.4 | 12.2 | 12.3 | 12.9 | 37.4 | ||||
公式RL | 1:50.6 | 12.5 | 10.5 | 12.8 | 35.8 | 12.4 | 12.7 | 12.3 | 37.4 | 12.2 | 12.0 | 13.2 | 37.4 |
2強対決のダート戦ではハナに立った方が勝つ事が圧倒的に多いのですが、トランセンドはここ2走2番手の競馬、エスポワールシチーは前走以外でも数回差す競馬で勝利を上げているわけで、6番枠と最大外16番枠という枠順の大きな差も相まって、どちらのテンが速いのかで勝負の全てが決まるのではなく、1コーナーを廻る段階で如何にスムーズな競馬が出来るか、あるいは如何に相手を序盤で苦しめる事が出来るかが勝負のポイントだったと思われます。
この2頭のタイプは人によって論じ方が変わってくるかもしれませんが、単純に表現すればトランセンドは持続力系、エスポワールシチーは瞬発力系となります。ハナに立つ事によって有利な度合いが強まるのはトランセンドの方ですが、いざスタートダッシュ比べとなれば瞬発力系のエスポワールシチーが速いはずです。で、内枠に入ったエスポワールシチーが1コーナーまで主導権を握る公算が高く、自ら逃げなくてもトウショウフリーク等を間に挟みながら1コーナーでトランセンドを外に張る事が可能であり、佐藤哲三騎手はエスポワールシチーに脚を使わせながらも、そんな戦いを挑んでくるだろうと私は予想していました。一方トランセンドは前走JBCCで気の抜けたレースをしてきており、少々スタートダッシュに戸惑う事を予感しておりました。
ところがゲートを真っ先に出て瞬時にリードを取ろうとしたのがトランセンドでした。1コーナーのインを真っすぐ目掛けたコース取りで、ココが最大の勝負処といった気迫を前面に見せながら藤田騎手が懸命に追って行きました。それに対しエスポワールシチーは12番枠ニホンピロアワーズに先を越される形。トウショウフリークを挟んだ向こう側に居るトランセンドにプレッシャーを与える術はほとんどありませんでした。結果、トランセンドは少々強引な進入ではありましたが1コーナーで先頭のままインを取る事を難なく成功。トランセンドの勝利が決まった瞬間でした。
ちょっとココで先日Tweetした内容を転記しておきます。
「京都ダ1800mのテンの1F目は12秒台前半が多く刻まれているのに対し、阪神ダ1800mのテンの1F目は12秒台後半が圧倒的に多い。阪神ダ1800mはスタート後急坂がある為にこのような違いがあると説明されているかもしれないが、それだけなら半分正解でしかない」
「実は京都ダ1800m、助走距離が通常の5mに対し倍以上の12m程度設けられている。これは残り200mのハロン棒が邪魔になるからだと思われるが、この為通常より0.2~0.3秒速く計時されてしまう。ウォータクティクスのレコードも1F平均12秒切りではなかったはずだ」
京都ダート1800mとテンの1Fのラップを単純に比べても全く意味がありません。助走距離の違いおよび坂の有無によってかなりのタイム差が生まれてしまいます。今回トランセンドが刻んだ1F12.5秒という値そのものは速く見えませんが、同馬のキャリア的に見てほぼMAX値といっても差し支えのない立派なスタートダッシュだったと思います。佐藤哲三騎手はあえて強引に行かなかったとも見えましたが、前半400mまでのラップから判断すれば無理できなかったと言えるかもしれません。また、私が算出した馬場差は昨年の同レースと比較すればプラス1.9秒。1Fに付きおよそ0.2秒掛かるかなり重い馬場でした。トランセンドは昨年前半3Fを今年とほぼ同ラップの12.5-11.1-12.3(mahmoud計測値)で逃げていたわけで、今年は実質1F毎0.2秒速く厳しい逃げを打ったのが良く分かると思います。したがってエスポワールシチーが消極的だったというよりは、トランセンドの逃げが圧巻だったという解釈の方が妥当かなと思います。それにしても前走JBCCは何だったのか。まあ体力温存したかったのでしょう・・・。
差しに拘ったが為にオーロマイスターに一蹴された2010南部杯、そしてその次のレースとなったBCクラシックで猛ペースに付き合って玉砕といい、どうもこの佐藤哲三というジョッキーは勝負師的な意味で、少し過大評価されているところもあるのかな、と思ったりします。あくまでも机上側の意見ですが、理に適った戦略性に欠ける事が多いんじゃないかと。今回のレースでも1コーナーに入るギリギリのところで、結局慌てるかのようにニホンピロアワーズの内に捻じ込んで行きました。ゲートオープンから緊迫感が少し足らなかったように見えたんですね。というか、「トランセンドに楽な競馬はさせない」という風情は感じられませんでした。
2着のワンダーアキュートは出遅れて後方からの競馬となり、しかも最後の直線では前が開かずに苦労していましたが、進路を見付けてからは強烈な末脚を使っていました。鞍上談としては道中ペースが上がらずに苦しかったとの事でしたが、ラップ推移を見ると無駄な脚を使わずに上手く追走出来ていたと思いますね。それがラストの伸び脚に繋がったと思われます。一方、ヤマニンキングリーやテスタマッタらは、向こう正面の入口から無駄な速脚を使っています。特にヤマニンキングリーのラップ推移は上下動が激し過ぎで、M.デムーロ騎手はこういうところが実に雑です。ヴィクトワールピサの騎乗ぶりとは紙一重なんですが、「いざ追い出してから伸びなかったね」なんて今回は当たり前ですね。まあこんな事をやっているからこそ、大胆な戦略を行動に移す事が出来るとも言えますけどね。
さて、以前のエントリーでも触れましたがダート四天王の位置付けを、今回の結果を持って再び考えてみましょう。そもそもダート競馬は最終的な走破タイムに大きく影響するほどの、極度のスローにはなりませんから、スピード指数の値そのものでの比較でかなり力関係を整理できるかと思います。というわけで、私算出の各馬の最高指数を書いておきましょう。公営競馬は指数を簡単に出せませんが、今回は特別に弾き出してみました。
スマートファルコン
114:2010東京大賞典1着
110:2011帝王賞1着(ラップ推移的にプラスアルファが見込める)
フリオーソ
111:2010東京大賞典2着
110:2010日本テレビ盃1着
エスポワールシチー
110:2010フェブラリーS1着
トランセンド
108:2011ジャパンカップダート1着
MAX値の比較ではこんな順序になります。指数100台後半の高値安定という観点から言えばトランセンドが一番となります。また他の3頭は年齢的に、あるいはレースぶりからこれ以上の上積みは難しいかもしれません。特にスマートファルコンの今秋2戦は、今年の帝王賞の面影が全くありませんでした。もともと高パフォーマンスを毎回行えるタイプではないものの、ちょっと今後に影を落とすレース内容だったと思います。東京大賞典でのレースぶりは注目です。
過去の馬についても何頭か最高指数を書いておきましょう。参考になるかと思います。
ヴァーミリアン
112:2007ジャパンカップダート1着
カネヒキリ
113:2006フェブラリーS1着
クロフネ
119:2001武蔵野S1着
115:2001ジャパンカップダート1着
ナリタハヤブサ
114:1992武蔵野S1着
今回はこのあたりで。